本記事では、Oracle Enterprise Managerの仕組みや機能、エディションの違い、ライセンスに関する注意点などを含めてわかりやすく紹介します。
はじめに:複雑化するシステム運用の中で
近年、ITシステムはオンプレミス・クラウドを問わず、構成がより複雑化しています。
データベース、ミドルウェア、サーバー、ネットワークといった複数の要素が連携し、ひとつのサービスを支える構造になっているため、運用担当者には「どこで何が起きているか」を正確に把握する力が求められます。
しかし、システムが増えればその分だけ監視対象や運用タスクも増大し、障害の早期発見や性能管理にかかる負担も大きくなります。
こうした課題に対応するため、Oracleが提供しているのが Oracle Enterprise Manager(以下、OEM)です。
OEMは、Oracle Databaseを中心としたシステム全体の運用を効率化し、可視化と自動化を実現する統合管理ツールです。
OEMとは
OEMは、Oracle Databaseや関連製品を対象に、監視・構成管理・パフォーマンス分析・
ジョブ管理などを統合的に実施できる管理ツールです。
複数のデータベースをまとめて監視し、リソース利用状況やSQL単位での性能情報も収集できます。
システム全体を『見える化』するので、運用の属人化を防ぐことができます。
Oracle Databaseを本格的に運用する環境では、ほぼ標準的な管理プラットフォームとして採用されています。
OEMでできる主なこと
1. データベース監視とアラート通知
OEMの基本機能は、データベースやホストの稼働状況を自動的に監視することです。
CPU使用率・メモリ消費率・ディスクI/O・セッション数・SQL応答時間など、日常的に確認すべきパフォーマンス情報を
リアルタイムで把握できます。
閾値を設定しておけば、異常を検知した際に自動でアラート通知を行い、問題の早期発見やダウンタイムの最小化につなげられます。
2. 性能分析とチューニング支援
OEMは、性能分析にも強みを持っています。
AWR(Automatic Workload Repository)やASH(Active Session History)といった、Oracle Database標準の性能管理機能と連携し、時間帯ごとの負荷傾向やSQL単位の分析が可能です。
問題の原因となっているSQL文や、I/OやCPU負荷の発生要因を可視化できるため、原因追跡やチューニング作業を効率的に
行えます。
3. ジョブ管理
OEM上で、データベースのバックアップやスクリプト実行などのジョブをスケジュール管理できます。
これにより、各サーバーで個別にタスクを設定する手間がなくなり、成功・失敗結果も一元的に確認可能です。
実行履歴は自動で記録されるため、トレーサビリティ確保や監査対応にも有効です。
4. セキュリティと監査
OEMでは、ユーザーごとに細かな権限を設定できます。
DBA、開発者、運用担当といったロール単位でアクセス範囲を制御し、操作ログを自動的に保存できます。
また、セキュリティパッチの適用状況や構成の整合性チェックも可能で、システム全体のセキュリティレベルを継続的に把握することができます。
Oracle Enterprise Managerの二つの製品比較
OEMには大きく分けて「Oracle Enterprise Manager Database Express(以下、EM Express)」と「Oracle Enterprise Manager Cloud Control(以下、EMCC)」の2種類があります。それぞれの特徴を比較すると以下のようになります。

▷ EM Expressの特徴
Oracle Databaseに標準で同梱されており、追加インストールの必要がありません。
Webブラウザから簡易的にDBの状態を確認できるため、開発者や小規模環境での利用に適しています。ただし、他ホストの監視や統合管理、ジョブ制御などの機能はありません。
注意:EM Expressは、Oracle Database 21cで非推奨となり、Oracle Database 23aiでサポートが終了しています。詳細はOracle公式ドキュメントをご覧ください。
Oracle Database データベース・アップグレード・ガイド
▷ EMCCの特徴
本格的な運用を想定した統合管理環境です。
複数のデータベースやホストをまとめて監視できるほか、自動パッチ適用、構成管理、運用レポート作成といった高度な機能を備えています。
大規模な企業システムやクラウドとの連携を前提とする場合には、こちらが推奨されます。
EM Expressの基本構成
EM Expressは、管理者がWebブラウザからHTTPSでデータベースサーバに直接接続し、リスナーを介してOracleデータベースを軽量に管理・監視できる組み込み型の管理ツールです。

EM Express構成図
EMCCの基本構成
EMCCは大きく3つの主要コンポーネントで構成されています。


EMCC構成図
これらのコンポーネントが連携することで、複数のシステムを統合的に監視・管理することが可能になります。
構造としては、OMAがデータを収集し、OMSで処理・可視化、OMRに蓄積するという流れです。
ライセンスと課金に関する注意点
EMCCは基本機能は無償で使用できますが、以下の高度機能には別途ライセンス(管理パック)が必要です。
・Diagnostic Pack:性能問題の原因を分析するための情報を記録・可視化・診断する。

・Tuning Pack:その原因をもとにSQL やアクセス方法を最適化する提案・実行を支援する。

これらは便利な一方で下記の制約があるため、本番環境で導入する際には事前にライセンス体系を確認することが重要です。
- 利用時にはデータベース本体のライセンスとは別に課金が発生。
- DBの監視にはEEが必須。(SEではホスト管理のみ)
Oracle公式ドキュメント(ライセンス情報ユーザー・マニュアル)では、各Pack機能の有効・無効設定の手順も明記されています。
不要な機能を無効化しておくことで、意図せぬライセンス違反を防止できます。
導入の流れ(概要)
実際にEMCCを導入する場合は、以下のような手順で構築を行います。
- 管理サーバーの構築
Oracleが提供するインストーラを使用し、Web管理用のサーバーを構築。 - OMSの導入・OMR(リポジトリDB)の準備
管理サーバーにOMSをインストールし、監視データを保存する専用データベースを構築。 - OMAの導入
監視対象サーバーにOMAをインストールし、OMSに登録。 - ターゲット登録
監視対象(DB・ホスト・リスナーなど)をコンソール上で設定。 - 監視ポリシー設定
閾値・アラート通知・ジョブスケジュールを設定して運用開始。
構築には一定の手順とリソースが必要ですが、一度環境を整えれば、運用負荷を大幅に軽減できる効率的な管理基盤となります。
まとめ:Oracle環境の"見える化"で運用を次のステージへ
OEMは、データベースを中心としたシステム運用を効率化し、監視・分析・自動化・可視化を一体化する統合プラットフォームです。
導入規模に応じて、無償のEM Expressから試すこともでき、より本格的な運用を求める場合にはEMCCによる拡張も可能です。
ただし、EMCCでは一部の高度機能が有償ライセンス対象となるため、導入前にライセンス条件を確認し、必要な範囲で機能を活用することが推奨されます。
複雑化するシステム運用を"見える化"し、トラブルを未然に防ぐための第一歩として、OEMの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

