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無線導入時の注意点(ローミング設計)について

●はじめに

今回は無線導入時に考慮が必要となるローミング設計について記載いたします。

その前にまずはローミングについて説明いたします。

なお、Cisco前提で執筆しておりますので、その点ご了承くださいませ。

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1. ローミングとは

クライアント端末が接続しているアクセスポイントから、別のより良い受信強度を持つアクセスポイントへ切り替わることをいいます。ローミングが行われるよくあるシチュエーションとしては、自席から会議室へ移動するときなど、今いる場所から離れた位置へクライアント端末が移動したときが挙げられます。ローミングは動的に行われ、そのために場所を移動しても改めてWifiを繋ぎ直さずにシームレスにWifiを使用し続けることができます。

2. ローミング機能がないとどうなるのか

ローミングをしないと、クライアント端末が移動後も元々繋がっているアクセスポイントに接続し続けます。アクセスポイントの電波は、クライアント端末との距離が空くほど強度は弱まるため、移動後も接続し続けていると、その電波は品質の悪い(通信速度が遅い)ものになります。品質の悪い電波を使用すれば、必然的にネットワーク接続は遅くなり、業務に影響が及んでしまいます。こうした品質の悪い電波を引きずって接続してしまうクライアントのことを、<スティッキークライアント>と言います。このスティッキークライアントが存在すると、その端末の通信の品質が悪くだけでなく、他の端末の通信もスティッキークライアントに引っ張られてしまい、パフォーマンスを下げてしまいます。

上記のことから、ローミングの必要性についてはご理解いただけたかと存じます。
なお、ローミング発生時には多少の通信断が発生します。

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●ローミング設計について

ローミングを設計するにあたって、いくつか考慮する必要があります。

以下に記載いたします。

1. アクセスポイントの配置について

まずローミングの前提として、そもそもアクセスポイントが適切な位置に配置されていないと、エリアに対して十分な電波が届かず、結果として品質の悪い電波に接続してしまうことが考えられます。
ならばと、予算の許す限りアクセスポイントを配置すればいいというわけではありません。
密集しすぎてしまうと、互いに干渉し、*DCA機能 によって使用できるチャネルの選定に影響が及びます。
また金属製の仕切りがあると、電波が想像しているよりも狭い範囲しか届かないこともあります。
そのために、まずは適切にアクセスポイントを配置する必要があります。

*DCA機能...動的にチャネルを割り当てる機能

2. ローミング設定(アクセスポイント)について

2.1 L2ローミングとL3ローミングについて

ひとえにローミングといっても、L2ローミングとL3ローミングがあります。
L2ローミングは同一のサブネットに属するAP間でローミングをすることをいいます。
対してL3ローミングは異なるサブネットに属するAP間でローミングすることをいいます。
これらは使用するFlexconnectグループによって使用できるものとできないものと分かれます。
簡潔に述べると、以下の通りです。

・セントラルスイッチング:L2,L3ローミング双方使用可能。
・ローカルスイッチング:L2ローミングは使用可能。L3ローミングは使用不可。

異なるセグメント間にてローミングを実施したい場合は、こうしたFlexconnectの設計についても考慮する必要があります。

2.2 高速ローミングについて

高速ローミングとは、文字通り素早くローミングを行う機能のことを言います。
ワイヤレスVoIPなどを導入する環境においては必須になってくる項目になるかと思います。
ただし、高速ローミングといっても、大きく三つあります。

① 802.11r

一つ目はIEEE規格の802.11r。<BSS Fast Transition>と言います。
他の規格の11kと11vとまとめて<802.11*k/*v/r>と表記されることも多いです。
高速ローミングといえばコレな印象です。
ただ注意点は存在します。

・Flexconnectの中央認証でしかサポートされず、また異なるFlexconnect間ではサポートされていません。
・古い機器を使用している環境だと、クライアントが対応できず、Wifiに繋がらなくなってしまいます。

そのため導入する際には、そこで使用されるすべての機器を把握しておく必要があります。
※ある会社の教育施設にAPを導入したさい、業務通信に影響がなかったものの、施設を運営する方の奥様が使用するスマホがかなり古く、上記が原因で接続できないことがありました。

*802.11k...隣接するAP情報を事前に提供する技術。これによりローミング時のスキャンの工程を削減する。
*802.11v...端末の通信品質を基にローミングを促す機能。

② OKC

キーキャッシングとも呼ばれます。
こちらはFlexconnectのローカル認証、中央認証、スタンドアローンモードのいずれもサポートされています。
APが同じFlexconnectグループ上にない場合でも機能はしますが、推奨またはサポートされている設定ではありません。
802.11rが登場するまでに比較的多く採用された設定です。

③ CCKM

これはCisco独自のプロトコルになります。
コントローラを経由することなく、ローミングすることができます。
Flexconnectのローカル認証、中央認証、スタンドアローンモードのいずれにも使用することができます。
なお、異なるFlexconnect間では使用ができません。

高速ローミングを導入する際には上記特長を考慮し、設計する必要があります。

2.3 ローミング最適化について

Ciscoでは<optimized-roam>という名称です。(Arubaでは<ClientMatch>)
<optimized-roam>ではデフォルトで無効になっています。
動作としては、アクセスポイントや無線LANコントローラからクライアントの受信強度を監視し、設定した閾値を下回ったときにクライアントとの接続を切断するという動作になります。
これは強ければいい、というわけではありません。あまりに閾値を高くしてしまうと、通信断が頻発したり、カバレッジホール(電波の届かないエリア)を実質的に生み出すことに繋がってしまいます。
導入するさいには閾値は-70dBm程度にしておくのがいいかと思われます。

他にもスティッキークライアントを生まないためにも、低速接続(レート)をカットする方法もあります。
実際によく行った対応として、<1,2,5.5,6,9,11Mbps>をカットし、12Mbpsを最低レートに設定いたしました。
なおこの設定により、802.11bという2.4GHz帯の無線は最大レートが11Mbpsであることから使用できなくなります。
必要に応じてレートを設定することがローミングを設計する上で大切になります。

3. ローミング設定(クライアント端末)について(おまけ)

ちなみにローミングの設定ですが、クライアント端末側でも行うことができます。

デバイスマネージャー > ネットワークアダプター > Wifiのアダプター を選択します。
開いていただき、詳細設定 > ローミングの積極性 から値を変更することができます。
この値を<最高>にすればよりローミングが行われやすくなります。
ただし、ローミングが頻発するとすなわち通信断も頻発することになるので、設定を変更するには注意が必要です。

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●さいごに

無線の設計はあまり経験することのないことかと思いますが、本記事がいつか訪れた際の一助となれれば幸いです。

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